仏具の豆知識

香りを聞く文化

 世界に様々な香料がある中で、最も古いものは、南アラビアや東アフリカ・インドが原産の「乳香(にゅうこう)」や「没薬(もつやく)」だと言われています。約2000年前には、黄金と同様の価値があったとされ、大変貴重なものとされてきました。また、インドなど東洋では紀元前の昔から、香料は身や心を浄めるもの、神に捧げるためのものとして用いられてきたと言います。
 お釈迦様が入滅された時、生前愛用されたという香を、弟子たちが供養のために焚いたことから、いわゆるお焼香が始まったと言われています。そして、香は、インドから中国を経て、仏教伝来と共に日本へ伝わって来ました。仏前の供養では、「香・灯・華」の三つが基本とされます。香=お線香やお焼香、灯=ローソク、華=仏花です。「香を聞くを以て佛食と為す」と説く経典もあり、「香は仏様のご馳走」と言われています。仏教では、自らの心身を浄め、仏に香りを捧げることが、重要なことと考えられてきました。
 その後、日本では貴族中心の社会となり、その生活の中に溶け込んだ香は、やがて優雅な遊びという要素をもちながら発展し、「香道」への誕生へとつながっていきます。香道では、香りは「嗅ぐ」というのは無粋であり、「聞く」と言います。「香りを聞く」とは、心を静かに鎮め、心を澄ませること、そして嗅覚という感覚を研ぎ澄ませて、香りを感じることです。香道では、香木を直接焚くということはしません。温めて出るほのかな香り、繊細な香りに心を向かい合わせる訳です。茶道の「わび・さび」にも通じる世界です。
 現代に生きる我々は、西洋の文明に強く影響を受けながら、常に強い刺激にさらされている気もします。人間が本来備えていた五感の力は、退化して行っているとも言われています。今でこそ、香りというと香水やアロマテラピーを想像される方も多いでしょうが、日本には大変高度な香りの文化があったのです。日本の香文化に触れることで、忘れていた、また知らなかった日本の良さを知り、また忙しい日々の中でやすらぎを感じていきたいものです。

香道具 いろいろ

聞香炉
聞 香 炉

源氏香図
源 氏 香 図

火道具
火 道 具

※参考文献
・『「香」その歴史と新しい世界』 香老舗 玉初堂
・『仏壇仏具ガイダンス』 仏事コーディネーター資格審査協会

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